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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)405号 判決 1963年11月18日

控訴人 和歌山信用金庫

理由

一、(証拠)を総合すると、被控訴人の父由良浅次郎は、被控訴人の授与した代理権限にもとづき、昭和二八年九月二四日、被控訴人名義で、控訴人に対し、訴外日高化成株式会社が控訴人との継続的手形取引契約により控訴人に現に負担し又は将来負担することあるべき手形債務およびこれに対する金一〇〇円につき一日金四銭の割合による遅延損害金につき、元本極度額を金七〇〇万円と定め、これを担保するため、被控訴人所有の不動産数筆に根抵当権を設定するとともに、右限度額において訴外会社のため連帯保証の責に任ずる旨の根保証契約を締結したことが認められる。

証言中、右根保証に関し、被控訴人の保証すべき範囲が前記の限度額をこえた部分にも及ぶとする趣旨の発言部分は、前掲甲第二号証の記載内容に照して到底採用できない。

二、(証拠)を総合すると、控訴人は昭和三一年三月三一日当時、すでに前記訴外会社に対する継続的手形取引契約を解除し、同日現在で右訴外会社は控訴人に対し、計四八通の手形元本債務三七一九万〇一七五円およびこれに対する約定遅延損害金九八一万三一七二円を負担していたこと、右訴外会社が右手形債務元本を一括して、昭和三二年七月はじめ頃、控訴人に宛てて、額面は右と同額、支払地、振出地ともに和歌山市、支払場所は控訴人方とし、振出日、支払期日を白地とした本件約束手形一通を振出し、控訴人がその所持人として、振出日を同年七月一二日、支払期日を同年八月三〇日と補充したうえ、右支払期日に本件手形を支払場所に呈示して支払を求めたけれども、その支払を拒絶されたことが認められる。

三、そこで、被控訴人主張の弁済の抗弁について判断する。

被控訴人が前記根抵当権を実行されていた不動産二筆について、控訴人と合意のうえ、任意売却し、その売得金で控訴人に対し金二五〇万円と金一七〇万円を内入弁済したことは、当事者間に争がない。

(1)、(証拠)と前記二、に認定した事実を合わせ考えると、右二五〇万円の内入弁済は昭和三一年三月三一日になされたが、被控訴人より弁済充当の指定がなかつたので、控訴人は、右弁済金を同日現在において右訴外会社の負担する前記三七一九万〇一七五円に対する約定遅延損害金九八一万三一七二円の内入に充当したことが認められる。しかしながら、前記内入弁済金が結局において前記根抵当物件を処分した売得金によつてなされたものであつて、しかも右根抵当の限度が元本極度額七〇〇万円であることに照し、控訴人の右充当は明らかに不当であつて、前掲甲第四号証と本件弁論の全趣旨に徴すれば、前記根抵当の元本限度額に相当する控訴人主張の約束手形八通手形元本計七〇〇万円に対する右昭和三一年三月三一日現在における約定遅延損害金一九九万六九六〇円に充当された範囲において、控訴人の右充当は正当であるが、右範囲をこえた部分の右充当は不当である。結局、右弁済金二五〇万円と右一九九万六九六〇円との差額五〇万三〇四〇円は、本来被控訴人の負担すべき手形債務元本の限度額七〇〇万円に充当されるものといわなければならない。

(2)、(証拠)によれば、被控訴人の前記一七〇万円の内入は昭和三五年六月二一日頃になされ、被控訴人の負担する手形債務の元本に充当されたことが認められる。控訴人は、右一七〇万円についても、被控訴人の負担すべき元本極度額七〇〇万円をこえた手形債務の元本に充当されたと主張するけれども、前記根抵当の趣旨に照し、右主張の理由のないことが明らかである。

(3)、したがつて、被控訴人としては、その負担すべき手形債務の元本約定限度限七〇〇万円のうち、前記五〇万三〇四〇円および一七〇万円の合計金二二〇万三〇四〇円の範囲において弁済し、したがつて、その限度において被控訴人の弁済の抗弁は理由がある。

四、ところで、控訴人が前記訴外会社に対して、被控訴人の右内入弁済を斟酌しても、なおかつ、少なくとも本件手形債権残元本三四九八万七一三五円とこれに対する呈示の翌日である昭和三二年八月三一日以降完済にいたるまでの約定遅延損害金債権を有することが明らかであるから、被控訴人は控訴人に対し、本件根保証契約にもとづく連帯保証人として、前記約定の手形債務の元本限度額七〇〇万より弁済ずみの二二〇万三〇四〇円を差引いた残額四七九万六九六〇円に前記昭和三二年八月一日以降完済までの約定遅延損害金を加えて支払うべき義務があるものといわなければならない。

五、以上の次第で、控訴人の本訴請求中原判決が二八〇万円をこえて前記認定の四七九万六九六〇円に達するまでの元本およびこれに対する遅延損害金の請求をしりぞけたのは、不当であるから、主文第一ないし第三項のとおり原判決を変更。

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